人事担当として働くビジネスパーソンの多くが、従業員のメンタルヘルスに課題を感じています。
厚生労働省は、従業員が50人未満の小規模事業所にもストレスチェックを義務づける方針を決めましたが、ストレスチェックを実施するだけでは十分ではなく、その後の対応が従業員の健康や職場環境の改善に直結します。
本記事では、人事担当者向けにストレスチェックの実施ポイントと、ストレスチェックを外部委託するメリットについて解説します。
精神疾患による労災認定は増加傾向
厚生労働省が発表した2023年度「過労死等の労災補償状況」によると、精神疾患での労災認定は833件で、過去5年間で最も高い件数となっています。
厚生労働省 2023年度「過労死等の労災補償状況」表2-1を参考に作成
支給決定件数で多かった割合をみてみると、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が157件と最も高く、次いで「業務に関連し、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」が111件、「セクシュアルハラスメントを受けた」が103件と続いています。
厚生労働省 2023年度「過労死等の労災補償状況」表2-8を参考に作成
このような労災認定の増加は、職場環境やメンタルヘルスへの関心が高まる中で、事業所や組織が適切な対策を講じる必要性を浮き彫りにしています。
ストレスチェック制度の目的と課題
ストレスチェックの概要
ストレスチェックは、従業員が職場におけるストレスの程度を定期的に測定するための制度です。
以前は従業員50人以上の事業所に義務づけられていましたが、小規模事業所にも適用が広がり、従業員のメンタルヘルス向上が期待されています。
ストレスチェックが抱える課題
従業員が職場で感じているストレスを可視化し、事業所がその結果をもとに職場環境の改善を図るために義務づけられているストレスチェックですが、いくつかの課題を抱えているという側面もあります。
ここでは、主要な課題についてみていきましょう。
ストレスチェック自体がストレス
ストレスチェックを実施する目的は、従業員の健康を守り、職場改善につなげることですが、ストレスチェック自体を従業員がストレスだと感じているケースもあります。
プライバシーへの懸念
従業員の中には、ストレスチェックの結果がどのように扱われるのか、上司や同僚に知られるのではないかという懸念を持つ場合もあります。
また、プライバシー保護の重要性が強調されているものの、職場の文化や過去の経験によっては、「チェック結果が評価に影響するのではないか」という思いから、意図的にストレスが低いと思われるような回答をするケースもみられます。
従業員の心理的な負担
自身のストレスがすでに高いと自覚している従業員にとって、ストレスチェックを受けることが「今の自分の状態はよくない」と再確認させられる行為であり、これが心理的なプレッシャーを生む可能性があります。
また、業務に追われている中で、ストレスチェックを受けるために時間を割くことから、自己管理や効率性が妨げられ、ストレスチェックに肯定的な意見が持てないケースもみられます。
ストレスチェック後の対応が事業所によって異なる
ストレスチェックは義務づけられているものの、結果を受けた後の具体的な対応やフォローアップは事業所ごとに対応が異なるため、根本的な問題解決につながらないと考えられています。
事業所のリソース不足
中小規模やリソースの限られた事業所では、ストレスチェック後の対応に十分な時間やコストを割けない場合があります。
また、形式的なストレスチェックを行うことで、事業所は従業員のメンタルヘルスケアに取り組んでいると認識するケースもありますが、事業所は具体的なフォローアップに注力する必要があります。
管理職のスキル不足
ストレスチェックの結果をもとに適切な対応を取るためには、管理職が従業員のメンタルヘルスに対する一定の知識やスキルを持っていることが必要です。
しかし、全ての管理職がそのスキルを十分に持っているわけではなく、結果としてフォローする立場である管理職のストレスも増加する傾向がみられます。
人事担当者向け ストレスチェックを活用するための対策
人事部門がストレスチェックを効果的に活用するためには、以下のアプローチが有効です。
フィードバックの充実
ストレスチェックを単なる形式的なプロセスで終わらせるのではなく、結果を受けた従業員に対するフィードバックを行い、必要なサポートを提供することが重要です。
メンタルヘルス研修の実施
従業員や管理職に対して、メンタルヘルスに関する研修を実施することで、職場全体でストレスへの理解を深め、相互にサポートする文化を醸成することができます。
人事担当はストレスチェックの課題にどう取り組むか
ストレスチェック制度には、従業員のメンタルヘルスを守るための重要な意図があるものの、実際には多くの課題が残されています。
特に、ストレスチェック後の対応が不透明であること、そして実際の職場環境の改善がみられないことなどが、従業員にとって大きな不満要因となっています。
これらの課題に対処するためには、ストレスチェック後のフォローアップを強化し、管理職や人事部門が積極的にメンタルヘルス対策を推進する必要があります。
では、事業所内の人材だけでは、従業員のメンタルヘルスケア全般をカバーできない時に有効な対策はあるのでしょうか。次の章でくわしくみていきます。
ストレスチェックを外部に委託するメリットを知る
現代のビジネスパーソンにとって、メンタル不調の原因は仕事に関する悩みだけではなく、家庭や人間関係、経済的な不安など、複数の要因が絡み合っています。そのため事業所内のリソースだけで、メンタルヘルスケアを全面的にカバーすることが難しいという現状があります。
ここでは、外部の専門機関にストレスチェックを委託することで得られる具体的なメリットをくわしくみていきましょう。
1.プライバシーの保護
ストレスチェックを外部機関に委託することで、従業員のプライバシーがより保護される環境が整います。
従業員は、自分のストレスレベルが事業所内で露呈することなく、安心してチェックを受けることができます。結果として信頼性の高い回答が得られ、正確な分析が可能になります。
従業員の安心感を支えることが、職場のメンタルヘルス向上の土壌づくりにもつながります。
2.専門的なサポートの提供
外部機関は、メンタルヘルスの専門家を揃えています。また、ストレスチェックの結果を分析し、必要に応じて従業員に専門的なカウンセリングやサポートを提供する体制が整っています。
ストレスチェックを外部に委託することで、事業所内ではカバーしきれない従業員のメンタルヘルスケアを、包括的にサポートすることができます。
3.客観的なフィードバック
外部機関によるストレスチェックでは、客観的な視点で結果を評価し、職場環境や従業員のメンタルヘルスに関するフィードバックが得られます。
事業所内でのチェックでは、管理職や同僚との関係性が結果に影響を与えることがありますが、外部機関を利用することで公正かつ客観的な結果が得られるため、事業所としても信頼性の高いデータをもとに対策を講じることができるでしょう。
4.生産性や効率の向上
特に中小規模事業所では、ストレスチェックの実施に必要なリソースを事業所内で確保することが難しい場合があります。
外部委託を活用することで、限られた予算の中で質の高いメンタルヘルスケアが受けられ、結果的に効率的な従業員のメンタルヘルスケアが実現し、生産性向上にも寄与するでしょう。
5.継続的なフォローアップ体制
外部の専門機関は、ストレスチェック後のフォローアップ体制も整えています。従業員が高ストレス状態であると判明した場合、外部のカウンセリングや支援サービスを速やかに提供できるため、事業所内のリソースを補完しながら迅速な対応が可能です。
このように、ストレスチェックを外部に委託することで、事業所は従業員のメンタルヘルスに対する多角的なアプローチを強化できます。
6.管理職や人事担当者の負担軽減
ストレスチェックを外部に委託することで、メンタルヘルスケア全般にわたるサポートが可能となり、人事担当者や管理職の負担が軽減されます。
小中規模の規模事業所だけではなく、大手事業所でも部署やセクションによっては、人手不足や多忙さからメンタルヘルス対策を進めにくいこともありますが、外部委託によりこの問題が解消されるなどメリットが大きいといえます。
まとめ
ストレスチェックを外部に委託することには、従業員のプライバシー保護や、専門的なメンタルヘルスケアの提供、客観的なフィードバックの獲得といったさまざまなメリットがあります。
社内リソースだけでは対応しきれないメンタルヘルスケアを外部の専門機関に委託することは、安心して働ける職場環境の整備や、生産性の向上につながるでしょう。
また、従業員だけでなく管理職や人事担当者の負担も軽減され、より幅広いサポートを受けることが可能になります。従業員一人ひとりが健康で充実した働き方を実現できるよう、外部委託の活用は、メンタルヘルス対策の重要な選択肢として検討する価値があります。
information
企業内カウンセリングをオンラインで実現
ストレスやメンタル不調を抱える従業員のメンタルヘルスケアにも活用できるのが、オンラインカウンセリングサービス「mezzanine(メザニン)」です。
臨床心理士や公認心理師、精神保健福祉士、EAPメンタルヘルスカウンセラー(eMC)などの専門資格をもつカウンセラーから「オンライン」でカウンセリングを受けられます。