心と体の健康の悩み

【医師監修】アルコール依存症のサインに気づくためのポイント 初期症状を徹底解説

日本の生活の中にはお酒の文化が強く根付いています。がんばった日のごほうびや、楽しい食事の席で飲む一杯は格別と思う方も多いでしょう。

しかし、飲酒量が徐々に増える、お酒を飲まずにはいられないなど、コントロールできない状態になっているようであれば「アルコール依存」かもしれません。

この記事では、「アルコール依存」の初期症状を解説していきます。

また、後半にはスクリーニングテストも用意しましたので活用してください。

監修医師


宮田 俊男 (Toshio MIYATA)

医師、博士(医学)、産業医
大阪大学医学部医学科卒業
早稲田大学理工学術院先端生命医科学センター(TWIns)教授
医療法人社団DEN みいクリニック代々木、みいクリニックみのお理事長

厚生労働省参与として国に助言するとともに、地域医療を推進するため、医療法人を経営し、企業の健康経営や多くの社員、役員のカウンセリング、社員の生活習慣病の重症化予防、病児保育、オンライン診療、医療DXにも取り組んでいる。出演番組の実績も多数。

「アルコール依存」とは

アルコール依存とは、摂取量や飲むタイミングを自分自身でコントロールできなくなる状態を指します。

お酒を飲むことはよくないと理解していても、脳の働きが変化することで次第にやめたくてもやめることができない状態になります。

アルコール依存症になりやすい人の特徴

アルコールに強く、沢山飲んでも意識がはっきりしている人もいれば、すぐに赤くなり酔いつぶれてしまう人もいます。ここでは、アルコール依存症になりやすいと言われている人の特徴を紹介します。

1.女性

女性は男性に比べてアルコールの分解速度が遅いため、お酒に弱くアルコール依存症になりやすい傾向があると言われています。

2.高齢者

高齢者が若年者に比べて少量の飲酒でも血中アルコール濃度が上昇しやすいため、代謝機能の低下や体内の水分量が減少するとされています。

その結果、アルコールが体内に長く残り、中枢神経に対する影響も大きくなるため、アルコール依存症のリスクが高まります。また、長期的な飲酒習慣は認知機能に影響を与え、認知症のリスクを高める可能性があるため、特に高齢者においては飲酒量に注意が必要です。

3.20歳未満

20歳未満の若者は成人に比べてアルコールの分解が遅く、体内にアルコールが長く留まるため心身に悪影響を及ぼしやすいです。また、若いうちに飲酒を始めると、成人後に大量飲酒やアルコール依存症になるリスクが高まります。

※尚、日本では20歳未満の飲酒は法律で固く禁止されており、違反した場合は50万円以下の罰金が課されることとされています。

4.飲酒後顔が赤くなりにくい人

厚生労働省の調査によると、日本人の5〜7%の人は、飲酒後に顔が赤くなりにくい「アルコールの分解酵素低活性型」を持っています。

そして、アルコール依存症患者の約30%がこの低活性型を持つタイプで、飲酒後に顔が赤くなりにくい一方、翌日までアルコールが残りやすい特徴があります。

これらに該当しない人でも、以下のプロセスによって依存症に発展していく可能性がありますので、注意が必要です。

「アルコール依存」と遺伝の関係

たとえば「酒豪」や「下戸」という言葉がありますが、お酒が強い、弱いは遺伝による性質であることが分かっています。

体内でアルコールを分解する際に生成されるアセトアルデヒドを速やかに分解する能力や、体内に滞留しやすい能力が遺伝によって異なるため、アルコールの影響に差が生じます。

しかし、遺伝的な要因もある一方で、遺伝のみで「アルコール依存」が発症するわけではありません。環境や生活状況、心身の健康状態なども影響を及ぼします。

「アルコール依存」のプロセス

「アルコール依存」はいきなりなるのではなく、段階を経て進行していきます。

  1. 飲酒習慣の変化
  2. 徐々に飲酒量が増える
  3. 記憶がないほど飲んでしまう
  4. 飲まずにはいられなくなる

順番にみていきましょう。

1.飲酒習慣の変化

お酒を自ら飲みたいとは感じず、忘年会や新年会、新人歓迎会や送別会などでのみ飲酒をしていたが、付き合いの席が増えるにつれて、酔うことが心地良いと感じるようになるというケースもあります。

また、外で飲む以外にも晩酌や寝る前に一杯などが習慣化していく場合もあり、いつの間に生活の中にお酒を飲む時間が組み込まれていきます。しかし飲酒の習慣があってもこの時点では一般的に、「お酒を楽しむ」、「おいしく飲む」という状態であるといえます。

男女別飲酒習慣の割合

2019年に厚生労働省が発表した「国民健康・栄養調査報告」によると、週に3回以上飲酒し、1日あたり1合以上を飲酒すると回答した割合では、50~59歳までの割合が最も高く、女性が16.6パーセント、男性が28.1パーセントとなっています。

厚生労働省 2019年国民健康・栄養調査報告 第93表を加工して作成

最近の若者がお酒をあまり飲まないと言われるのは、40〜69歳までの飲酒習慣の割合が20〜39歳までに比べると高いからかもしれませんね。

2.徐々に飲酒量が増える

「以前よりお酒に強くなったような気がする」

そう感じているようであれば、お酒に対する耐性が出来ることで今までの量では酔わなくなり、飲酒量が増加する可能性が考えられるため注意が必要です。

1日のアルコール摂取量の適正は純アルコール20gまで

1日のアルコール摂取量の適正は純アルコール20gとされています。

純アルコールといわれてもいまいちピンときませんが、ビールだと500ml、日本酒だと180ml、ワインは200mlでグラス1杯半ということになります。

また厚生労働省では、女性はワイン、生ビール中ジョッキ、350mlの缶酎ハイのいずれか1杯で生活習慣病のリスクが高まるとしています。ですので、女性は男性と比較すると半分の10gが適正量とされており、「思ったよりもかなり少ない量で、リスクが高くなるのは意外」という印象を持つかもしれません。

生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合

男女別飲酒習慣の割合と同様に、2019年に厚生労働省が発表した「国民健康・栄養調査報告」によると、男性40〜69歳の割合が他の年齢と比較して高いことが分かります。

男性20〜29歳は6.4パーセントですが、最も高い40〜49歳は21.0パーセントですので、3倍以上の開きがあります。

また、女性に関しても20〜29歳が5.3パーセントなのに対し、30〜59歳は10パーセントを超えているため、2倍以上の数値となっています。


※「生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者」とは、1日当たりの純アルコール摂取量が男性で40g以上,女性20g以上の者とし,以下の方法で算出した。
①男性:「毎日×2合以上」+「週5~6日×2合以上」+「週3~4日×3合以上」+「週1~2日×5合以上」+「月1~3日×5合以上」
②女性:「毎日×1合以上」+「週5~6日×1合以上」+「週3~4日×1合以上」+「週1~2日×3合以上」+「月1~3日×5合以上」
厚生労働省 2019年国民健康・栄養調査報告 参考表を加工して作成

3.記憶がないほど飲んでしまう

「昨日のこと覚えてないの?」

「記憶がなくなるまで飲むなんて危険だよ」

このような言葉を周囲からかけられた経験はないでしょうか。

このような場合、お酒を飲み過ぎで「記憶をなくす」、飲んでいた時のことが「思い出せない」という表現をする場合がありますが、実際には「覚えられなかった」「記憶を作れなかった」がより正確な表現といえます。

なぜ記憶を作れないのか

私たちの脳には一時的に物事を記憶しておく海馬という器官があり、脳をパソコンに例えるならば「一時メモリー」のような役割を果たしています。

しかし、大量にアルコールを摂取した状態では、脳に入った情報が海馬に届けられても、記憶を形成する処理がうまく行われず、情報を長期的な記憶として保存することが難しくなります。そのため、お酒を飲んだ状態で経験したことは、後で思い出すことが難しくなることがあるのです。

また、飲酒によって記憶を作れない状態を「ブラックアウト」といい、1度や2度ではなく頻発する場合は注意が必要です。

4.飲まずにはいられなくなる

仕事がうまくいかずミスをしてしまっても、その日の夜に飲酒をすれば翌日もがんばれる。

このように、「飲まずにやっていられるか!」という状況下でお酒を飲むと、一時的にストレスから解放された気分になります。

しかし、嫌なことがあると飲むということが習慣化すると、そのうち飲むこと自体に気を取られるようになります。そして自分自身ではコントロールできず、お酒を飲むことをやめたくてもやめられなくなるのが、「アルコール依存」の初期症状です。

初期症状から進行すると身体的な影響も

症状が出ていても飲酒を続けていると、身体がお酒を飲んでいる状態を「普通」と認識してしまうため、飲んでいないと大量の汗をかいたり手が震えたりという離脱症状が現れるようになります。

このように「アルコール依存」は本人の意思とは関係なく陥る可能性があり、飲酒を続けていると心身に大きな影響が現れるようになります。

いつでもやめられると思っていたけれど

元々お酒が好きな人、お酒に弱いけれど飲める人、何かのイベントがあると飲む人。現代人とアルコールの関係は様々ですが、「アルコール依存」になったとしても、その後は飲まなければいいだけのことと多くの人が考えるでしょう。

しかし、「アルコール依存」を改善していくには、多くの時間と専門家のサポートが必要不可欠です。

「アルコール依存」と「うつ」の関係

「アルコール依存」と「うつ」の症状は相互に影響し合う関係にあり、「アルコール依存」が「うつ」の症状を引き起こすこともあれば、逆に「うつ」の症状で辛い状態であると、アルコールへの依存性が高まることも考えられます。

「アルコール依存」が「うつ」を引き起こすケース

「アルコール依存」に陥っている場合、長期間のアルコール摂取によって心身のバランスが崩れることがあります。

アルコールは一時的に気分を高揚させる効果を持ち、飲まずにいると気分が落ち込むため、うつ症状が悪化する可能性があります。

「うつ」が「アルコール依存」を悪化させるケース

うつ症状を抱える人々は、気分が沈んでいる状態を軽減するためにアルコールを利用することがあります。

アルコールによって一時的にではありますが気分が楽になることから、結果的にアルコールへの依存が高まり、「アルコール依存」の症状が強まる可能性があります。

依存やうつ症状の悪化を防ぐためには、重複する要因や共通するメカニズムを考慮して、両方の症状に対する専門家のサポートが必要であるといえるでしょう。

「アルコール依存」スクリーニングテスト

「アルコール依存」スクリーニングテストであるAUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)は、アルコールの使用状況や関連するリスクを評価するための簡易的な評価ツールです。

10の質問には5つまたは3つの選択肢があり、回答は0から4のスコアで評価されます。スコアの合計が一定値を超えると、アルコール関連の問題や依存のリスクがある可能性が高まるとされています。

質問に回答してチェックをつけていくと、最後に合計点数が表示されます。

1. あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか?
飲まない 0点
1ヶ月に1度以下 1点
1ヶ月に2〜4度 2点
1週に2〜3度 3点
1週に4度以上 4点
2.飲酒するときには通常どのくらいの量を飲みますか?
ただし「日本酒1合=2ドリンク」「ビール大瓶1本=2.5ドリンク」「ウィスキー水割りダブル1杯=2ドリンク」「焼酎お湯割り1杯=1ドリンク」「ワイングラス1杯=1.5ドリンク」「梅酒小コップ1杯=1ドリンク」とします。
1〜2ドリンク 0点
3〜4ドリンク 1点
5〜6ドリンク 2点
7〜9ドリンク 3点
7〜9ドリンク 4点
3.1度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか?
ない 0点
1ヶ月に1度未満 1点
1ヶ月に1度 2点
1週に1度 3点
毎日あるいはほとんど毎日 4点
4.過去1年間に、飲み始めると止められなかった事が、どのくらいの頻度でありましたか?
ない 0点
1ヶ月に1度未満 1点
1ヶ月に1度 2点
1週に1度 3点
毎日あるいはほとんど毎日 4点
5.過去1年間に、普通だと行えることを飲酒していたためにできなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか?
ない 0点
1ヶ月に1度未満 1点
1ヶ月に1度 2点
1週に1度 3点
毎日あるいはほとんど毎日 4点
6.過去1年間に、深酒の後体調を整えるために、朝迎え酒をせねばならなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか?
ない 0点
1ヶ月に1度未満 1点
1ヶ月に1度 2点
1週に1度 3点
毎日あるいはほとんど毎日 4点
7.過去1年間に、飲酒後、罪悪感や自責の念にかられたことが、どのくらいの頻度でありましたか?
ない 0点
1ヶ月に1度未満 1点
1ヶ月に1度 2点
1週に1度 3点
毎日あるいはほとんど毎日 4点
8.過去1年間に、飲酒のため前夜の出来事を思い出せなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか?
ない 0点
1ヶ月に1度未満 1点
1ヶ月に1度 2点
1週に1度 3点
毎日あるいはほとんど毎日 4点
9.あなたの飲酒のために、あなた自身か他の誰かがけがをしたことがありますか?
ない 0点
1点
あるが、過去1年にはなし 2点
3点
過去1年間にあり 4点
10.肉親や親戚・友人・医師あるいは他の健康管理にたずさわる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒量を減らすように勧めたりしたことがありますか?
ない 0点
1点
あるが、過去1年にはなし 2点
3点
過去1年間にあり 4点

合計得点: 0


0~7点 問題飲酒はないと思われる
8~14点 問題飲酒はあるが依存には至らない
15点以上 依存が疑われる

出典 厚生労働省 e-ヘルスネット

「アルコール依存」には専門家のサポートが必要不可欠

「アルコール依存」の克服には周囲や家族からの理解や、専門家からの心理的なサポートが非常に重要になってきます。

専門家とのカウンセリングや断酒会への参加に取り組むことで、「アルコール依存」に対する理解が深まるでしょう。まずは、「アルコール依存」の当事者が、自身の問題と向き合う必要があるのです。

一般的な認識とは異なり、アルコール依存は単なる意志力や意思だけで解決することは難しいといえますので、専門家のサポートを受けながら取り組んでいくとよいでしょう。

まずはオンラインカウンセリングで気持ちを整理する

アルコール依存と向き合うためには、まずは自分自身の気持ちを整理するところからはじめてみるとよいでしょう。

オンラインカウンセリングはインターネットに繋がる環境があれば、全国どこからでも利用することができます。メンタルヘルスのプロであるカウンセラーに、飲まずにはいられなくてつらい気持ちを相談してみるのも非常に有効です。

オンラインカウンセリングサービスは、比較的遅い時間帯でも対応している場合が多いので、自宅から辛い気持ちを相談することができますので、自分の気持ちを整理したい時は利用してみましょう。

まとめ

適量のお酒であれば、一時的にストレスの解消や社交的な場を楽しむ手段としての効果もあるかもしれません。しかし、自分自身でコントロールできない状態は、心の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

もし、自分は重症ではないけれど、「アルコール依存」の初期症状が出ているかもと悩んでいる方や、最近家族の飲酒量が増えたと不安な場合は専門家に相談をしてみましょう。

依存症に関する悩みを相談できる
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メザニンコラムを発信している「mezzanine」では、オンラインカウンセリングを提供しています。ご自宅から、専門性の高いカウンセラーからのカウンセリングを受けられます。

メザニン登録カウンセラー
佐々木 隆嘉 Takayoshi SASAKI
臨床心理士、公認心理師

会計事務所での勤務など、様々な社会人経験を経たのち大学院に入学。修了後、医療・教育領域をメインに業務にあたっています。

【メッセージ】
話をしても何も解決しないかもしれない、話すこと自体がつらい、カウンセラーと合わないかもしれないなど、不安に感じることもあるかもしれませんが、一歩踏み出してご相談いただければと思っています。

あまり堅苦しくならず、ただ愚痴を話してまったりする時間にしていただいても大丈夫です。