現代社会において、対人恐怖症という言葉を耳にすることが増えました。誰しも大勢の前で話したり、初対面の人と会ったりする場合、多少の緊張は感じるものです。
しかし、人前で過剰に緊張してしまうことで、そのことで恐怖を感じたり、苦痛を感じるようになり、日常生活もままならない状態に陥ってしまう人もいます。
この記事では、対人恐怖症の症状や原因、そして様々な対処法について詳しく解説していきます。
対人恐怖症とは
近年、「社交不安障害」という名前でも知られるようになりました。「社交不安障害」は、特定の状況や環境で強い不安を感じることが特徴です。
一方、「対人恐怖症」は、他人からどう思われているかが気になるあまり、不安な場面や状況を回避することで日常生活や社会生活に支障が出る状態です。
また、常に周りの目線が気になり、自分のことについて良くない噂をされているのではないかと、疑心暗鬼になってしまうこともあります。
対人恐怖症の症状
対人恐怖症には、精神的な症状と身体的な症状があり、人によって症状の出方や頻度は異なります。ここでは、一般的な症状を紹介していきます。
精神的な症状
強い不安や恐怖感
他人の視線や評価が気になり、強い不安や恐怖を感じることが多いです。これが原因で、日常の会話や人前での発言に困難を感じたり、場合によっては人前に出られなくなってしまうこともあります。
自己否定感
自分が他人に迷惑をかけている、または不快な思いをさせていると感じ、自己否定感が強くなってしまうことがあります。
過度の緊張
人前に出ると、極度の緊張を感じることがあります。この緊張が原因で、スムーズに話すことが難しくなる場合もあります。
身体的な症状
発汗や震え
人前に出たり、人に見られているような場面で緊張し、それにより汗をかいたり、手足や声が震えたりすることがあります。
動悸や息切れ
人前に出た時や、出ることを考えた時に不安が高まり、心臓がドキドキしたり、呼吸が速くなったりすることがあります。
胃腸の不調
緊張や不安が原因で、胃痛や下痢、便秘などの消化器系の問題が起こることがあります。また、食欲不振や吐き気などが起こる場合もあります。
対人恐怖症の種類
対人恐怖症と言っても、その種類や症状が引き起こされる場面は多岐にわたり、人によって異なります。ここでは対人恐怖症の種類を紹介します。
1.対人緊張
学校や職場で他人と接する際に、相手の存在や視線を過剰に意識し、高い緊張感と不安や苦痛を感じてしまいます。
また、自分以外の人が仲良く見えてしまい、自分だけが孤立しているように感じることもあります。対人緊張は、対人恐怖症の典型的なタイプと言えます。
2.スピーチ恐怖
会議や結婚式などの大勢の前でスピーチをする際に、強い不安を感じます。強いプレッシャーから、頭が真っ白になったり、声が震えることがあります。
対人恐怖症の中でも、比較的訴える人が多い症状であり、人前に立つことが増えてきた人に表れやすい症状と言えます。
3.視線恐怖
他人が自分に注目して悪い噂をしているように感じたり、自分の行動を周囲に観察されているようで心が落ち着かないといった他人の視線に怖さを感じるタイプです。
また、自分の視線が相手に嫌な印象を与えてしまっていないか気になってしまい、相手の顔が見れなくなってしまうタイプもあります。
4.赤面恐怖
人前に立つと顔が赤くなったり、異性の前で赤面することが恥ずかしいために、人に注目される場面を過剰に意識したり、人が集まる場所を避けるタイプです。
過去に特定の場面で顔が赤くなっていることを指摘されたことで、人前に出ることが苦手になる場合もあります。
5.振戦恐怖
職場などで来客にお茶を出すときや、目上の人などに作業をチェックされているときに、手が震えてしまうタイプです。
人と接する場面で、手や足など体が震えてしまうことでさらに緊張し、そのような場面が怖くなってしまいます。
6.電話恐怖
オフィスなどの場で電話を取る際に、他の人に自分の話し方を聞かれているのではと不安を感じたり、電話の相手に不快感を与えていないか心配になり、怖くて電話を取ることができないタイプです。
電話が鳴ると緊張で心拍数が上がり、変な人だと思われるのではないかと不安になり、電話を取っても上手く言葉が出なくなる場合があります。
7.会食恐怖
他人に食べている姿を見られることで緊張し、食事がうまく進まなくなるタイプです。自分の食べる音や様子が気になり、のどがつまることもあります。
その結果、おいしそうに食べられないことに対して同席者に申し訳ないと感じてしまうことがあり、症状が悪化すると、人前で食事ができなくなってしまうことがあります。
8.発汗恐怖
他人から話しかけられる時や仕事で接客をするときに、強い緊張や恐怖を感じて大量に汗をかいてしまうタイプです。額からポタポタと汗が流れるほどで、そのためタオルを手放せないこともあります。
9.自己臭恐怖
自分の汗のにおいや口臭や体臭が他人に不快感を与えるのではないかと心配し、人との接触を避けてしまうタイプです。実際には臭いが無いにも関わらず、自分だけ臭いを感じてしまう場合もあります。
10.トイレ恐怖
比較的男性に多いタイプで、職場のトイレに上司や苦手な人が入ってくると上手く排尿できなくなったり、公共のトイレで後ろに人が並んだり横に人がいると、ドキドキして排尿ができなくなることがあります。
女性でも、トイレに人が並んでいる場合に、時間を気にしすぎて、排尿が困難になる場合があります。このタイプは、人がいないトイレでは問題ないことが特徴です。
対人恐怖症になりやすい人の特徴
では、対人恐怖症になりやすい人にはどのような特徴があるのでしょうか。
性格的特徴 | 内向的、自己評価が低い、過度に自己批判的、完璧主義 |
感情的特徴 | 不安感が強い、他人の評価を過度に気にする、緊張しやすい |
社会的特徴 | 人前で話すことに苦手意識がある、孤立しやすい |
生物学的特徴 | 神経質な性格、家族に対人恐怖症や不安障害の歴史がある場合 |
環境的特徴 | 厳しい育成環境、過度に保護的な親、社会的なトラウマ |
対人恐怖症になりやすい時期
対人恐怖症は思春期になりやすいと一般的にいわれていますが、時期には個人差があります。
思春期 | 中学生・高校生時期に特に発症しやすい。自我の形成期であり、他者からの評価に敏感になりやすい。 |
大学時代 | 新しい環境や人間関係に適応する必要があり、対人不安が増すことがある。 |
初めての職場 | 新しい職場環境での適応、同僚や上司との関係構築がストレスとなりやすい。 |
ライフイベント | 結婚、転職、引越しなどの大きなライフイベントがきっかけで発症する場合がある |
対人恐怖症と併発しやすい病気
うつ
対人恐怖症が深刻化し、適切な治療が行なわれなかった場合、うつ症状を併発する可能性があります。うつの症状として、気分の沈み込みや過度の眠気、持続的な疲労感、食欲の変化、集中力の低下、意欲の減退などを起こすことがあります。
アルコール依存症
対人恐怖症の人は、飲酒で緊張を解消しようとする場合があり、その場合、アルコール依存症を併発しやすくなります。
アルコール依存症の治療では、ダメージを受けた身体の治療とともに、体験者同士による集団療法や家族療法などを含めた心理療法的アプローチが必要になる場合があります。
対人恐怖症の日常でできる対処法
対人恐怖症の症状を感じたら、早めに対処することが大切です。この章では、対人恐怖症の症状を軽減するために、日常生活で取り入れられる対処法をご紹介します。
1.リラックス法を取り入れる
深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラックス法を日常に取り入れることで、不安を和らげる効果があります。
また、緊張で全身に力が入ってしまう場合には、一度全身に思い切り力を入れてから脱力することで、身体の緊張を緩めることができます。
2.イメージトレーニングをする
自分が人前で楽しく話していることを想像することで、緊張や不安を和らげることができます。また「人前で話すことは楽しい」「みんな好意的に見てくれている」と声に出すことで、良いイメージを持つことができます。
3.少しずつ社交的な場面に挑戦する
人前に不安や怖さを感じる人は、少しずつ社交的な場面に慣れることも有効です。例えば、友人との短い会話などから始めてみると良いでしょう。
また、自分から積極的に挨拶をすることで、相手との距離感が縮まり、話しやすい雰囲気を作ることができます。
4.自己肯定感を高める
自分の良いところや成功体験を振り返ることで、自己肯定感を高めることができます。また、鏡の前で笑顔を作ってみることで、ポジティブな気持ちになり、自己肯定感を高める効果があります。自己肯定感が高まれば、緊張や不安を感じにくくなるでしょう。
5.生活リズムを整える
十分な睡眠やバランスの取れた食事を心掛けることで、対人恐怖症の原因の一つでもある自律神経の乱れを改善する効果が期待できます。
専門家のサポートを受ける
対人恐怖症の症状を感じたら、カウンセリングなど、専門家のサポートを受けることで、症状の緩和が期待できます。
カウンセリングでは、専門のカウンセラーがじっくりと話を聞き、対人恐怖症の原因や症状について理解を深める手助けをします。
オンラインカウンセリング
オンラインカウンセリングはインターネットに繋がる環境があれば、全国どこからでも利用することができます。
対人恐怖症かもと感じたら、メンタルヘルスのプロであるカウンセラーに不安や悩みを相談してみるのも非常に有効です。
オンラインカウンセリングサービスは、比較的遅い時間帯でも対応している場合が多いので、自宅から辛い気持ちを相談することができます。自分の気持ちを整理したい時は利用してみましょう。
また、週に1度のカウンセリングを継続して行うことで、対人恐怖症による不安の緩和が期待できます。
まとめ
対人恐怖症は、誰もが経験する可能性のある症状です。しかし、適切な理解と対処法を身につけることで、その影響を軽減し、より快適な日常生活を送ることができます。
対人恐怖症には、自己理解を深めることや、専門家のサポートを受けることがとても重要です。対人恐怖症で悩んでいる方は、まずは小さな一歩を踏み出してみましょう。
mezzanineのカウンセラー
メザニン登録カウンセラー
芹野 まり Mari SERINO
EAPメンタルヘルスカウンセラー(eMC)、キャリアコンサルタント
医療機関に従事後、現在は企業向け産業保健業務の営業コンサルに従事。健康経営、産業衛生、メンタルヘルスなどを学びました。現在は企業の外部相談窓口(EAP)の相談も担当しています。
【メッセージ】
結婚、不妊治療、離婚、ペットロス、親の介護など哀しいことも楽しいことも悔しい思いもたくさん経験してきたことが、今となっては財産になっています。同じ経験をしていても一人ひとり思いや感情は違うものです。
安心してご相談いただける場所を提供できるよう、丁寧に寄り添っていきたいと思います。