「うつ」になり仕事を辞めてしまった方は「いつかまた働きたい」「社会復帰を目指したい」と願う一方で、「うつの症状」との付き合いの中で、再発への不安や体力的な心配、周囲の理解など、様々な不安を感じてしまうかもしれません。
この記事では、うつを抱えながら就職活動をする際の注意点や、就職活動のポイント、そして再発防止策まで、具体的な方法をまとめました。
あなたのペースで一歩ずつ、社会復帰への道筋を描いていきましょう。
「うつ」などの精神疾患を抱える人の割合
2024年8月に厚生労働省が発表した「厚生労働白書」によると、2020年の精神疾患を有する外来患者数は、0~24歳が79万人、25~34歳が54.2万人、35~44歳が78.3万人、45~54歳が98万人、55~64歳が71.4万人、65~74歳が69.4万人、75歳以上が136.2万人となっており、いずれの世代も年々増加傾向にあり、特に、前回調査の2017年からは大幅に増加しています。
厚生労働省「2024年版厚生労働白書」9ページグラフを参考に作成
これから就職をはじめる10代や20代、キャリアを重ねた30から60代、そして退職後の70代以降の全ての世代において、精神疾患を訴える人は増えており、「うつ」などで就職や再就職の悩みを抱える人は少なくないと言えます。
「うつ」を抱える方が就職する際の注意点
「うつ」の症状を抱えながら就職活動をする際には無理をしないことが大切です、そのほかにも注意しておきたいポイントがありますのでご紹介します。
1. 焦らず、自分のペースで
休業中の方は「早く仕事を見つけなければ」と考えたり、就業中の方が「周りに迷惑をかけている」 と焦ることで、「うつ」の症状を悪化させてしまう可能性があります。
また、「うつ」の症状が強く出ている時は冷静な判断が困難であったり、いつもと違う判断をしてしまう場合もあります。まずは焦らずに一度立ち止まって、あなたの心身の回復を最優先に考えてみることが大切です。
2. 自分の体調と相談しながら
就職活動は、体力と精神力が必要です。 「今日は応募書類の作成を進めよう」「明日はハローワークに行ってみよう」というように、具体的な行動目標を立てながらも、その日の体調に合わせて、無理のない範囲で進めていきましょう。
また、自分の心身の状態がどの程度回復しているのかを、自分一人で判断せず、かかりつけの医師やカウンセラーなどと話し合いながら就職活動を進めていくことをおすすめします。
3. 一人で抱え込まず、周囲のサポートを積極的に活用する
「うつ」症状が強い時には、悲観的な考えで頭がいっぱいになってしまったり、退職や転職に対して「これしか道がない」という気持ちになってしまう場合があります。
冷静に物事を判断し、大事な決断を進めるためにも、一人で抱え込まずに家族、友人、医療機関、就労支援機関などのサポートを受けることも重要です。
「うつ」を抱える方が就職するために準備すること
就職活動をスムーズに進めるため、そして就職後も健康に働き続けられるようにするためにも、しっかりと準備しておくことが大切です。ここでは、以下の4つのポイントを参考に準備を進めましょう。
1. 生活リズムを整える
「うつ」の症状があると、睡眠不足になったり、昼夜逆転の生活になってしまう場合があります。就職後は、基本的に週5日職場に通い、8時間程度働くことになります。そのためにも生活リズムを整え、体力を養う必要があります。
また、規則正しい生活を送ることは、心身の安定にもつながります。 起床・就寝時間、食事の時間などを決め、毎日なるべく同じ時間に起き、寝るように心がけましょう。
同様に、軽い運動は、ストレス軽減や体力回復に効果的です。 ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かすようにしましょう。
2.人との関わりを増やしていく
「うつ」になると、人と会ったり話したりするのが億劫になり、人と関わる機会が減ってしまいます。
しかし就職活動や職場では、様々な人とコミュニケーションを取ることになります。最初から沢山の人とコミュニケーションを取るのは難しいので、まずは家族や友人など身近な人とコミュニケーションを取るようにし、段階的に関わりを広げていくと良いでしょう。
他にも、近くのカフェや図書館など、毎日決まった時間に外に出て、どこかに通う習慣をあらかじめ作っておくことで、就職後の環境変化に対応しやすくなります。
3. 沢山の情報を集める
ハローワークや就職支援サイトなどを活用し、求人情報や就職活動に関する情報を集めましょう。 様々な情報を整理することで、自分自身のキャリアプランや希望する働き方が明確になっていきます。
また、職種だけでなく、自分に合った働き方を探すこともポイントです。正社員だけでなく、派遣やフリーランスなど、また在宅勤務や時短勤務など、現在は様々な働き方が存在していますので、自分に合った働き方を探していきましょう。
4. 自己分析を行う
就職活動や再就職を行う前に、自己分析や職種の研究、希望する業界の下調べに加えて、「自分にはどのような仕事環境が合うのか」をしっかり把握しておく必要があります。
どんな状況の時にストレスを感じやすいのか、また、ストレスを感じた時にどのような状態になるのかなど、自分の心身の状態などを理解し整理しておくことが大切です。
「うつ」を抱える方が就職活動を行うときのポイント
準備が終わったら、実際に就職活動に進みます。その際にも気を付けておきたいポイントがいくつかあります。
就職活動で行き詰まったり、ストレスを抱えないためにも、ポイントを押さえ、心にゆとりを持って進めるようにしましょう。
1.就職活動期間は長めに
「○月までに就職先を決める」など、ある程度期限を決めた方が頑張れる場合もありますが、「うつ」の症状がある場合、期限を決めたことが負担となり症状が悪化してしまう場合もあります。
自分に合った職場に就職するを最優先課題とし、焦らずに進めていくことが大切です。
傷病手当金の受給対象かどうか確認したい場合は、人事部や健康保険組合に相談してみてください。
経済支援を活用する
休職中や療養中に経済面で不安になる方もいるかと思います。「うつ」の治療中に経済面での助けとなる制度もいくつか存在しますので、活用を考えてみるのも良いでしょう。
自立支援医療(精神通院医療)
自立支援医療(精神通院医療)は、精神疾患の治療にかかる通院費用の自己負担を軽減するための制度です。
通常、公的医療保険では医療費の3割を自己負担しますが、この制度を利用することで、自己負担が1割に軽減されます。
利用するには事前に申請が必要ですので、お住まいの自治体の障害福祉課などにお問い合わせください。
傷病手当金
社会保険に加入しており、うつ病などで働けない期間中に給与が十分に支払われない場合、傷病手当金を受け取れる可能性があります。この手当を受給するためには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
- 業務外で発生した病気やケガの療養であること
- 病気やケガのために仕事ができない状態であること
- 連続した3日間の休業を含め、4日以上仕事に就けなかったこと
- 療養による休業期間中に給与の支払いがないこと
傷病手当金の受給対象かどうか確認したい場合は、人事部や健康保険組合に相談してみてください。
障害年金
病気やケガによって仕事や日常生活に支障がある場合に受給できる公的年金です。障害者手帳がなくても申請が可能で、うつ病の方も条件を満たせば申請できます。
受給にはいくつかの条件がありますので、詳しくは年金事務所などにお問い合わせください。
2. 職場環境と業務量を確認しておく
残業時間や年間休日、フレックスタイム制の有無など、あなたのライフスタイルに合った働き方ができるかを確認しましょう。
他にも、勤務地までの距離が遠すぎる場合は、通勤に負担がかかってしまうので注意が必要です。
また、病気休暇や休職制度、メンタルヘルス対策など、福利厚生が充実している企業を選ぶことは、安心して働き続ける上で重要ですので、求人票や面接の場でしっかりと確認しておくようにすると良いでしょう。
面接や職場で「うつ」のことを伝えた方が良い?
就職活動をする際に、「うつ」のことを伝えるべきか悩むことがあるかもしれませんが、結論から言えば、病歴について伝える義務は原則としてありません。
ただし、「業務遂行にあたり健康面では問題ありませんか」と質問されるケースもありますので、その時の状態をしっかりと伝えておくことが重要になります。
また、就職先をハローワークの専門援助部門を利用して探す場合は、精神疾患があることを企業に公開するか、非公開にするかを選択することが可能ですので、不安があるようであれば、一度窓口で相談してみるのもよいでしょう。
リワークプログラムの利用を検討する
リワークでは、就職に必要な知識やスキルを習得するための訓練や自己分析、職場実習、就職活動のサポートなどのサービスを提供しています。
これらの支援機関を積極的に活用することで、よりスムーズに就職活動を進めることができます。
リワークについては、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
就職後の「うつ」の再発防止策
就職が決まっても、再び「うつ」を発症してしまうのではと不安に感じる場合は、以下の5つのポイントを意識して再発防止に努めましょう。
1. 無理をしない
自分のキャパシティを超えた仕事量は、心身に大きな負担をかけます。 「できないことは断る」「助けを求める」ことを忘れずに、無理のない範囲で仕事に取り組みましょう。
また、調子が良いからと言って、頑張りすぎてしまうことにも注意が必要です。体力に自信がある人でも、徐々に慣らしていく姿勢を持つようにしましょう。
2. 休日はしっかり休む
仕事のことを忘れて、心身ともにリフレッシュできる時間を持ちましょう。 趣味を楽しんだり、家族や友人と過ごしたり、自分なりのリフレッシュ方法を見つけましょう。
また、調子が悪くなる前に休みを持つことも大切です。有給申請や休暇の事前申請ができる場合には、上手く活用し、計画的に休みを取ることも有効です。
3. 睡眠時間を確保する
睡眠不足は、「うつ」の再発リスクを高める要因の一つです。 規則正しい生活を心がけ、十分な睡眠時間を確保しましょう。
睡眠に不安がある人は、入眠グッズや、睡眠環境の調整を行い、質の良い睡眠をとれるように準備しましょう。
4. 規則正しい食生活を送る
栄養バランスの取れた食事は、心身の健康を支える基盤となります。 インスタント食品や外食に頼りすぎず、自炊をするなどして、栄養バランスを意識した食生活を心がけましょう。
また、適度な運動も心身の状態を良好に保つのに大変有効です。運動時間が取れない人は、一駅分多く歩いてみるなど、普段の生活の中で運動を取り入れるようにしてみるのも良いでしょう。
5. 相談できる相手を見つける
仕事上の悩みや不安は、一人で抱え込まずに、信頼できる人に相談しましょう。 家族、友人、同僚、上司、産業医など、誰かに話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になるはずです。
新しい職場で、相談できる相手が居ない場合には、カウンセラーなどの専門家を活用するのも大変効果的です。
専門のカウンセラーであれば、職場のことなどの話しづらい内容も気軽に相談することができますし、職場や病気の不安に対し効果的なアドバイスをもらうことができます。
オンラインカウンセリングは予約も簡単
オンラインカウンセリングはインターネットにつながる環境であれば24時間、スマートフォンからでも簡単に予約が取れます。また、オンラインカウンセリングは自宅で相談できるのもメリットです。
相談をするために移動する時間を省くことはもちろん、なによりリラックスできる状態で自宅などから専門のカウンセラーに相談することができるのが、オンラインカウンセリング最大のメリットです。
また、カウンセリングは週に一度など、定期的に継続して行うことが効果的です。
利用が簡単なオンラインカウンセリングには、続けやすいというメリットがあります。週に一度、相談できる環境を作っておくと、心が安定しやすくなり、職場の環境にもなじみやすくなります。
まとめ
今回は、「うつ」を抱えながら就職活動をする際の注意点や、就職活動のポイント、そして再発防止策まで、具体的な方法を紹介しました。
まずは、かかりつけの医師の指示に従いながら、ゆっくりと治療に専念することが大切です。
そして、できるだけ自分の希望や心身の状態に適した職場を見つけることを最優先とし、障害者雇用なども検討しつつ、再発しない環境選びを目指しましょう。
mezzanineのカウンセラー
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メザニン登録カウンセラー
冬木 更紗 Sarasa FUYUKI
臨床心理士、公認心理師
心理学学位および臨床心理学専攻修士取得。臨床心理士および公認心理師取得後、精神科・心療内科にてカウンセリングを行なっています。また、心理検査の実施経験が豊富です。
【メッセージ】
精神科・心療内科でうつ病、適応障害、パニック障害、発達障害など様々な診断を受けた方々とのカウンセリングを行ってきました。
これまでに得た専門知識を活かしながら、あなたの悩みについて考えるお手伝いをさせていただけると幸いです。