大人の発達障害が急増している背景には何があるのでしょうか。
この記事では、大人になってもなかなか気づかれない理由や、発達障害の特徴についてわかりやすく解説していきます。
宮田 俊男 (Toshio MIYATA)
医師、博士(医学)、産業医
大阪大学医学部医学科卒業
早稲田大学理工学術院先端生命医科学センター(TWIns)教授
医療法人社団DEN みいクリニック代々木、みいクリニックみのお理事長
厚生労働省参与として国に助言するとともに、地域医療を推進するため、医療法人を経営し、企業の健康経営や多くの社員、役員のカウンセリング、社員の生活習慣病の重症化予防、病児保育、オンライン診療、医療DXにも取り組んでいる。出演番組の実績も多数。
「発達障害」は生まれつきの特性
発達障害は、個人が生まれ持った脳の発達や機能に関連した状態を指し、その特性は生活や学習に大きな影響を与えることが知られています。
「発達障害」の原因は十分には解明されていない
発達障害は、脳の発達や神経回路の異常に関連しており、遺伝的な要因や環境の影響も重要な役割を果たしていると考えられていますが、具体的な原因やメカニズムについてはまだ完全に解明されていない部分もあります。
2019年に文部科学省が行った「通級による指導実施状況調査」から、「進級による指導を受けている児童生徒数の推移」を見てみると、2007年は合計9,792名なのに対し2019年には91,888名と9倍以上の数となっています。
文部科学省 | 通級による指導実施状況調査結果についてを参考に加工して作成
しかし、現在活躍するビジネスパーソンが小学生、中学生だった時代は「発達障害」という言葉そのものにも、あまり馴染みがありませんでした。
大人になって気づく「発達障害」
「発達障害」は大人になって突然発症することはないとされています。ではなぜ、大人になってから「発達障害」と診断されるケースが増加しているのでしょうか。
子どもの頃は「発達障害」であることが見過ごされやすい背景も
こだわりが強い
授業中にじっとしていられない
先生が喋っている事と教科書の内容が結びつかない
このような特徴も、周囲が「個性」として捉えサポートすることにより、発達障害であることが見過ごされていたのではないかと考えられています。
症状が出ていても、「発達障害」に対する一般的な認識が不足していた時代ですから、少し変わっているところもあるが、子どもならこのくらいはあり得るであろう、という視点で見られることが少なくなかったという背景があります。
インターネットの普及で「発達障害」が認知されるケースも
インターネットの普及は、情報の共有や取得に革命をもたらしました。現在では、世界中の情報にアクセスできるようになり、ニュースや研究論文、調査データなど、多種多様な情報源が手軽に利用できるようになっています。
インターネットが普及したことで、生活に必要な知識や他者との比較範囲が大きく変化し、「発達障害」に対する知識や理解も進みました。これにより、受診する機会も増え「大人の発達障害」と診断されるケースが多くなったと考えられます。
また、なんとなく「生きづらい」と感じていた症状が、じつは発達障害だったと分かるケースがある一方で、発達障害の傾向があっても医師から診断が下りない「グレーゾーン」で悩む人も数多く存在します。
「発達障害」とは
文部科学省では発達障害を以下の通りに定義しています。
発達障害とは、発達障害者支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されています。
引用)文部科学省 発達障害について
この記事では、発達障害の中でも代表的とされる、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、AD(学習障害)について紹介していきます。
1.ASD(自閉スペクトラム症)
ASD:Autism Spectrum Disorder
ASDは自閉スペクトラム症とも呼ばれ、社会的コミュニケーションの困難、社会的な交流の困難、反復的な行動という特徴的な3つの領域を持っています。
また、ASDは早期幼児期から現れることが一般的です。
それでは、ASDの特徴的な3つの領域について解説します。
ADSの特徴的な3つの領域
1.社会的コミュニケーションが特徴的
ASDは言語の発達の遅れ、言葉の理解や表現に困難を抱える場合があります。ASDの特徴として、「言葉を言葉の通りに受け取る」ことが挙げられます。
また、他人の感情や言葉の意味など、微細なニュアンスを理解するのが困難な場合が多く、冗談や比喩などの非直接的な表現も理解しづらいことがあります。
2.行動と感覚の処理が特徴的
ASDは特定の行動や興味に制約がある傾向があります。一定のパターンやルーティンに従うことを好み、行動や習慣を反復することから「こだわりが強い」とされています。
また、感覚の処理においても特徴的な反応を示すことがあります。例えば、光や音などに対して過敏に反応し、過剰な刺激と感じることがある一方で、ある感覚刺激には鈍い反応を示す場合もあります。
3.社会的交流が特徴的
他人との社会的な相互作用に困難を抱える傾向があり、他者との関係の構築や維持、表情やジェスチャー、視線などの理解が困難である場合があります。
また、他者との関わりよりも、自身が興味関心を持つ物事に対して集中する傾向があります。
2.ADHD(注意欠陥・多動性障害)
ADHD:Attention Deficit Hyperactivity Disorder
ADHDは注意欠如・多動症とも呼ばれる通り、持続的な注意力の欠如や多動または衝動性のパターンが特徴であり、日常生活や生活の質に影響を与えることがあります。
ADHDの3つの特徴
これらの特徴を、社会人として働く職場環境を例に、さらに詳しく説明していきます。
1.不注意が多い
集中力の持続が難しく、会議やミーティングなどで他の従業員が話しているのを最後まで聞くことが難しく、別の事で頭がいっぱいになることがあります。
2.物忘れや見落としが多い
ミーティングや約束の日時や場所を忘れる、メモや重要な文書を見落とす、連絡を取り忘れるなどが挙げられます。
3.タスク管理が困難である
スケジュールや納期の管理に苦労することがあります。予定時刻までに到着することが難しく、遅刻をしてしまう、重要な締め切りを守れないなどを繰り返す場合があります。
4.じっとしていられない
長時間集中力を要する作業や、もくもくと業務を行うことが困難で、作業に対して落ち着かない傾向があります。他の従業員よりもよく席を立ち、歩き回ることを繰り返す場合もあります。
5.複数のことを同時に処理することが難しい
情報を同時に処理することが難しいため、複数の業務を平行して行うことが困難です。例えば、複数の取引先から違う内容のメールや電話を受けた場合などは、重要な情報を見落としたり、混乱したりすることがあります。
6.詳細をまとめることが苦手
会話の中で、内容を要約しながら話すことが困難なため、喋りだすと時間を多く費やす場合や、思考や話題の転換が頻繁に起こったりすることもあります。
7.行動や発言が抑制できない
ミーティングやディスカッション、チームビルディングなどでも、思い立ったらすぐに発言をする傾向があるため、他の従業員が話している最中でも構わず話し出すことがあります。
8.焦りやイライラする感情が表に出る
とくに社会人として働く職場では、思い通りにいかない状況にも遭遇しますが、イライラを抑えきれずに物へ当たったりする傾向があります。
ADHDは上記の特徴の組み合わせにより症状にも個人差があり、不注意の特徴が大きく出る場合もあれば、衝動性が優位になるケースもあります。
3.LD(学習障害)
LD:Learning Disorder
LDは学習障害と呼ばれ、聞く、読む、書く、計算において支障が出ている状態です。一般的にLDは、個人の脳機能や処理能力の異常によるものと考えられています。
LDの特徴
苦手なこと | 特徴 |
聞く | 音の記憶が難しい 音と文字が一致しない |
読む | 区切るように読む 読み間違いが多い 文字をなぞりながら読む |
書く | 書くことに時間がかかる 漢字を覚えるのが困難 |
計算 | 数の大小が理解できない 九九が覚えられない 図形の理解が困難 |
では、社会人が会社で働く場面でのLDの例を見ていきましょう。
1.文書の読解や作成に時間がかかる
聞く、読む、書くの困難はディスレクシアとも呼ばれ、文字の認識や音の結びつけ、文章の理解などが難しいことがあるため、報告書やメールの読み書きに時間がかかり、理解や表現に誤りが生じることがあります。
また、ペーパーレスの推進やリモート会議の導入などにより、聞いている音や声とPC上で見る文字が一致しない、自分で作成した資料に句読点や誤字が非常に多いなどの症状から、発達障害であることが判明するケースもあります。
2.数値処理や図形を認識することが難しい
計算や数学などの困難はディスカルキュリアとも呼ばれ、数字の認識や数学的な概念の理解が難しいことがあります。また、数の順序やパターンの認識、計算などから、三角形や台形などの図形の認識も苦手です。
予算の作成や財務データの解析など、数値に関わる業務において混乱が生じたり、図形が認識できないことから、他従業員が作成した資料が理解できないなどの症状が出ます。そのため、会議やプレゼンテーションでの重要なポイントや詳細な情報の把握が難しくなり、意思決定や業務の遂行に支障をきたすことがあります。
「生きづらさ」の不安を相談してみよう
時代が違えば「健康」の定義も変わります。現代を生きるビジネスパーソンたちが子どもだった当時、発達障害についての理解や診断方法はまだ発展途上の段階でした。そのため、多くの人々が発達障害と診断されずに成長したと考えられています。
高度成長期の日本では、労働力として健康であることが重視され、体力を持つことが求められていました。1990年代になると健康の定義がより予防的な側面にシフトしていき、身体だけではなくこころの健康にも注目されるようになっていきます。
このような時代を経て、現代では総合的な視点で健康を捉える傾向になりつつあります。健康は単なる病気の不在ではなく、身体的・心理的・社会的なバランスを含んだ総合的な状態として理解されるようになったのです。
大人の発達障害の診断は難しく、グレーゾーンであるとされるケースも増えているため、「なんとなく生きづらい」と感じたら、誰かに悩みを相談してみましょう。
オンラインカウンセリングで悩みを相談してみよう
「生きづらさ」を感じたときは、メンタルヘルスのプロであるカウンセラーに相談することが有効です。さらに、オンラインカウンセリングを選択することは、リラックスできる自宅から相談ができるメリットがあります。
「生きづらさ」という不安を抱えている時、安全な環境でカウンセリングを受けることができます。
まとめ
この記事ではASDやADHD、そしてLDという大人の発達障害とされる特徴を解説しました。しかし、発達障害と診断されないグレーゾーンで悩む方や、複合的なストレスによって不安を抱える社会人も多く、こころの健康にはサポートが必要です。
もし「生きづらさ」で悩んでいるならば、まずは気軽に相談をしてみましょう。
mezzanineのカウンセラー
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メザニン登録カウンセラー
冬木 更紗 Sarasa FUYUKI
臨床心理士、公認心理師
心理学学位および臨床心理学専攻修士取得。臨床心理士および公認心理師取得後、精神科・心療内科にてカウンセリングを行なっています。また、心理検査の実施経験が豊富です。
【メッセージ】
精神科・心療内科でうつ病、適応障害、パニック障害、発達障害など様々な診断を受けた方々とのカウンセリングを行ってきました。
これまでに得た専門知識を活かしながら、あなたの悩みについて考えるお手伝いをさせていただけると幸いです。