- 最近夫がありえない嘘を頻繁につくようになった
- ある日突然、身に覚えのない督促状が自宅に届いた
- 大学進学で一人暮らしをする息子から、借金で困っていると前触れもなく電話がかかってきた
このように、家族が「ギャンブル依存症」かもしれないと悩む人が増えています。この記事では、ギャンブル依存症の危険性について詳しく解説していきます。
また、周囲や家族はギャンブル依存症の当事者に対して、どう接していけばよいかも紹介していきます。ぜひ参考にしてください。
宮田 俊男 (Toshio MIYATA)
医師、博士(医学)、産業医
大阪大学医学部医学科卒業
早稲田大学理工学術院先端生命医科学センター(TWIns)教授
医療法人社団DEN みいクリニック代々木、みいクリニックみのお理事長
厚生労働省参与として国に助言するとともに、地域医療を推進するため、医療法人を経営し、企業の健康経営や多くの社員、役員のカウンセリング、社員の生活習慣病の重症化予防、病児保育、オンライン診療、医療DXにも取り組んでいる。出演番組の実績も多数。
「ギャンブル依存症」とは
「ギャンブル依存症」は、自身ではコントロールできない状態になり、日常生活や社会生活に影響が出る状態を指します。
ギャンブルを苦しみながら続ける人、衝動を抑え切れない人
「ギャンブル依存症」は、やめたくてもやめられずに苦しみながらギャンブルを続ける人と、ギャンブルへの衝動を抑えられずに続けてしまう人の2つのパターンが考えられますが、どちらもギャンブルがやめられなくなるメカニズムは同じです。
なぜギャンブルがやめられなくなるのか
ギャンブルに勝つ経験をすると、脳内でドーパミンが分泌され、興奮や快感を得ることができます。この感覚を脳が「ごほうびだ!」と認識することで、再びギャンブルをしてしまうのです。
ギャンブルを続けていると低下する「ごほうび」の回路
ギャンブルを続けていくうちに、脳が快楽を感じる「ごほうび」回路がだんだんと鈍くなり、ちょっと勝ったくらいでは満足できなくなってきます。
以前のような興奮や快楽を得ようとさらにのめり込んでいくため、ギャンブルをするという行為がやめたくてもやめられなくなるのです。
誰もがなり得る「ギャンブル依存症」
皆さんは、ギャンブルをやめられない人にどのようなイメージを持っているでしょうか。
だらしない生活をしていてヒゲが伸び放題の人。もしくは、寝巻のような恰好でサンダルを履いた人でしょうか。
「ギャンブル依存症」は真面目で優しく、よく働くしっかりとした人、今まではギャンブルと無縁の生活を送っていた人など、誰もがなり得る症状です。
ストレスをためこんでしまう人こそ要注意
ギャンブルに依存する要因として、ストレスが挙げられます。
嫌なことや我慢していることがある。解決しないことや逃げ出したいことがある。日常には大小関わらず様々なストレスが存在します。
うまくいかない時、何気なくやったギャンブルでたまたま勝って気持ちが高揚し、そこからあっという間にギャンブル依存症に陥ったというケースも珍しくありません。
「ギャンブル依存症」の心理とは
「ギャンブル依存症」になると、「負けを取り戻したらやめる」、「大丈夫、次に勝てばいい」という考えでギャンブルを続けるようになっていきます。
負けることもあるが、勝つことだってある
負けることもあるが勝ったこともあるので、トータルではそんなにお金は使っていないと言い聞かせ、ギャンブルをするために開店前から並び、朝から閉店までひたすらやり続ける。
インターネットでのギャンブルなら証拠が残らない。地方競馬は毎日やっているから仕事の合間に予想して馬券を買っている。
「ギャンブル依存症」に陥ると上記のような心理状態となり、負けると負けた分を取り返そうと更にギャンブルを繰り返していきます。
「この状況をなんとかしなければ」という思い
今までの負けを「なかったことにしたい」、「ここまで来たら大勝ちするまでやるしかない」とギャンブルを続けてしまい、気づけば自分自身ではやめたくてもやめられない状態になりますが、やり続ける限り状況が良くなることは難しいといえます。
勝った時の高揚感が忘れられない
また、勝ったら勝ったで、次はもっと勝てるかもという心理になりますので、勝っても負けても、やめたくてもやめられない「ギャンブル依存症」に陥ってしまいます。
では、ギャンブル依存症の当事者は、ギャンブルをするための資金を一体どこから捻出するのでしょうか。
ギャンブル依存症と借金の問題
ギャンブルをするにはお金が必要です。
最初は自身のおこづかいから、次は給与やボーナスから、そして貯金に手をつけはじめます。しかしギャンブルに依存をしていますので、手元にお金があったらあっただけギャンブルを続けてしまい、そのうち家庭内のお金では当然不足するようになっていきます。
「ギャンブル依存症」の当事者は、ギャンブルが最優先の生活になるため、急に決まった飲み会がある、学校や会社で必要になったものを購入しなけらばならない、財布を落としてしまったなどと言って、まずは身近な家族へお金の無心に走ります。
それでもお金が足りなくなると、家族のキャッシュカードを盗んで勝手にお金を引き落とすようになり、それでも足りなくなると遂に消費者金融に向かうのです。
消費者金融の「借金」を「貯金」と勘違いしてしまう
消費者金融でお金を借り始めると、「借りれるお金は使えるお金であり貯金だ」と勘違いをするようになり、限度額まで借入をしてしまいます。
とにかくお金がないことにはギャンブルができません。消費者金融で借入ができる限度額がいっぱいになると、ありとあらゆる手段を使ってお金を工面しますが、限度を超えた出費が続けば、いずれ家族が気づく日がやってきます。
「ギャンブル依存症」だから「借金」は仕方がないのか
生活していく上でお金は必要不可欠ですが、信頼しているからこそ、嘘をつかれるのは何よりもつらいことです。
当事者の「嘘」は家族や周囲にダメージを与える
「ギャンブル依存症」の当事者はギャンブルが最優先になるため、お金を工面するために様々な嘘をつくようになります。家族もなんとなく違和感を覚える嘘が続いたことで、当事者の異変に気づくケースは少なくありません。
なぜ嘘をついてまで、借金をしてまでギャンブルをするのか。周囲や家族は、「ギャンブル依存症」に陥っている当事者の言葉を信じることができないという、最も困難な状況に立たされてしまいます。
家族が「ギャンブル依存症」の当事者から受ける影響
「ギャンブル依存症」に陥っている当事者もコントロールできないのだから、周囲は理解しなくてはいけない。本人も被害者なのだから…。そう頭では分かっていても、サポートする側の負担も相当なものです。
当事者とともに生活をする家族にとっては、一日一日を乗り越えることに疲れを感じてしまうでしょう。
2020年度に久里浜医療センターが行った「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査」では、「あてはまるものはない」を除くと、「浪費・借金による経済困難が生じた」が30.4パーセント、「ギャンブルをやめられない人に怒りを感じた」が30パーセントと高い割合となっています。
久里浜医療センター 2020年度「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査」図表2-22を加工して作成
では、周囲や家族が当事者に接する際に気を付けることはあるのでしょうか。次の章で詳しく見ていきます。
周囲や家族は当事者にどう接していけばよいのか
周囲や家族は、「ギャンブル依存症」になった当事者は大切な存在だからなんとかしてあげたい、味方でいたいと思うでしょう。
当事者と接する際は、以下のことに気を付けて接することが大切です。
- 誓約書や念書は書かせない
- 借金の肩代わりはしない
- 金銭管理はぜず、お金を渡す場合はまとめて渡す
- 適度な距離を保ちつつサポートする
順番に見ていきましょう。
1.誓約書や念書は書かせない
「ギャンブル依存症」は、当事者が「やめたくてもやめられない」状態です。
ですので、誓約書や念書を書いても、当事者の意思とは関係なく「ギャンブルをせずにはいられない」のです。そのため、二度とギャンブルをしないと誓った翌日には、またギャンブルを続けてしまいます。
そんな当事者を目の当たりにすれば、周囲や家族は約束を破ったとショックを受け、当事者も約束を守れない自分自身に対して強いストレスを感じるでしょう。
そのため、専門家のサポートを受けながら、当事者自身が責任を持って解決できる方法を模索することが大切です。
2.借金の肩代わりはしない
知人や友人だけではなく、消費者金融に借入がある場合は、「利息があるし早くなんとかしなければ」という思いから、周囲や家族が借金を肩代わりしてしまうケースがあります。
特に家族は、一刻も早く解決したい、なんとかしてあげたい、という気持ちが大きければ大きいほど借金を肩代わりしてしまうでしょう。
しかし、借金の肩代わりをすることにより、「ギャンブル依存症」の当事者が借金という「お金の問題」に向き合う機会を先延ばしにしている可能性があるのです。一時的には依存の問題が解決したように見えますが、多くの場合は当事者が更に借金を繰り返すことに繋がります。
3.金銭管理はぜず、お金を渡す場合はまとめて渡す
お金を持っていると使ってしまうからと、家族が徹底的に金銭管理を行うことも、気を付けたいポイントです。
手元になければ使わないだろうという考えであれば、今まで起こったことを振り返ってみましょう。「ギャンブル依存症」の当事者は、ギャンブルをするためにありとあらゆる手段でお金を工面するのです。
家族が管理しているお金が使えないなら、他から捻出するしかないと思うのが、「ギャンブル依存症」です。
また、お金を渡す場合は、小出しにではなくまとめて渡し、使い切ってしまってもお金は出せないことを伝え、計画的に使えるようにトレーニングを行うことが大切です。
金銭管理でも重要なのは、当事者がしっかりと自身で管理し、「ギャンブル依存症」に向き合うことなのです。現実には難しく、時間がかかるかもしれませんが、粘り強くトレーニングを重ねていきましょう。
4.適度な距離を保ちつつサポートする
周囲や家族は、「ギャンブル依存症」の当事者と適度な距離を保ちつつ、理解を示していきましょう。
過度な監視や押し付けは逆効果になる可能性があるため、当事者のプライバシーを尊重しつつ、専門家のサポートとともに見守っていくことが重要です。
「ギャンブル依存症」の当事者が自身の依存の症状と向き合う過程で、いつでも周囲や家族が助けてくれる、もうダメだと思ってもなんとかしてくれると思っていると、なかなか前に進むことが難しくなります。
総じて言えることは、「ギャンブル依存症」は深刻な問題であり、その解決には専門家の適切なサポートが不可欠であるという点です。
ひとりで悩まず相談を
家族の問題だから家庭内でなんとか解決をしたいと考える方は少なくありません。
しかし、「ギャンブル依存症」は当事者でもコントロールができないため、専門家のサポートが必要といえます。そして、当事者を支える側の方にも支えは必要です。
もしもひとりで悩み、自分がなんとかしなくてはと追い詰められているなら、まずは相談をしてみましょう。ひとりでがんばろうとしないことが大事です。
mezzanineのカウンセラー
メザニン登録カウンセラー
佐々木 隆嘉 Takayoshi SASAKI
臨床心理士、公認心理師
会計事務所での勤務など、様々な社会人経験を経たのち大学院に入学。修了後、医療・教育領域をメインに業務にあたっています。
【メッセージ】
話をしても何も解決しないかもしれない、話すこと自体がつらい、カウンセラーと合わないかもしれないなど、不安に感じることもあるかもしれませんが、一歩踏み出してご相談いただければと思っています。
あまり堅苦しくならず、ただ愚痴を話してまったりする時間にしていただいても大丈夫です。