仕事の悩み

「うつ」で傷病手当金はもらえる?支給条件や申請方法などを解説

「うつ」などのメンタル不調で仕事を続けるのが難しい場合に、傷病手当金を受け取れることがあります。傷病手当金は、仕事を休んで治療に専念する際の経済的な支えになります。

今回の記事では、傷病手当金を受け取るための支給条件や申請方法について詳しく解説していきます。

目次
  1. 傷病手当金とは
  2. 精神疾患が原因で傷病手当金を受給している人の割合
  3. 「うつ」で傷病手当金を受給するための3条件
  4. 傷病手当金の受給金額
  5. 傷病手当金の受給期間
  6. 傷病手当金の申請の3ステップ
  7. 傷病手当金の審査期間
  8. 傷病手当金が減額もしくは支給されないケース
  9. 傷病手当金に関するQ&A
  10. うつ病の方が傷病手当金以外に受けられる支援制度
  11. 「うつ」の方の復職や再就職の支援
  12. うつの症状が辛いときはメンタルケアを並行して行う
  13. まとめ

傷病手当金とは

傷病手当金とは、病気やケガで働けなくなった際に支給される手当のことです。申請条件を満たしていれば、通常、給与の3分の2ほどが支給されます。

これは会社の保険組合、または全国健康保険協会の加入者とその家族が受けられる制度で、経済的な心配を減らすために用意されています。

精神疾患が原因で傷病手当金を受給している人の割合

全国健康保険協会が発表した資料によりますと、2021年に協会けんぽの傷病手当金を受給した人の請求原因は「精神疾患」が33%と一番多く、「うつ」などの精神疾患での受給は2019年から3年連続1位となっています。


全国健康保険協会 山形支部 資料2.傷病別の支給状況を参考に作成

「うつ」で傷病手当金を受給するための3条件

「うつ」であっても、特定の条件を満たすことで傷病手当金の支給を受けることができます。

1.仕事以外のことがきっかけで「うつ」を発症した

傷病手当金を受給するためには、「うつ」の原因が仕事以外のものである必要があります。例えば、家庭の問題や個人的なストレスが原因の場合です。

もし、職場での過重労働やハラスメントなどが原因で「うつ」を発症した場合は、労災保険の対象となります。

2.「うつ」の治療のため働くことができなかった

療養のために、実際に仕事を休んでいることが条件となります。つまり、医師からの診断書で働けない状態であることを証明する必要があります。

診断書には、休職が必要な期間や治療内容などが記載されています。また、療養は必ずしも入院というわけではなく、自宅療養も含まれます。

3.連続する3日を含め4日以上仕事ができなかった

傷病手当金は、連続する3日間の待機期間を含めて、4日以上仕事を休んだ場合に支給されます。「うつ」で休んだ最初の3日間は【待機期間】として扱われ、その後4日目から傷病手当金が支給される仕組みです。

最初の2日間を休んで3日目に出勤すると、待機期間の3日間が満たされず、傷病手当金は支給されません。傷病手当金を受け取るためには、連続して3日間休む必要があります。

傷病手当金の受給金額

傷病手当金は、健康保険の加入期間などによって受給金額の計算方法が異なりますが、基本的には過去1年間の平均月収の約3分の2が支給されます。

支給開始日より以前の勤務期間が12か月に満たない場合は、以下のいずれかの低い額の方を使用して計算されます。

  • 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均額
  • 該当する年度の前年度9月30日における、全被保険者の同月の標準報酬月額※を平均した額。

標準報酬月額とは

被保険者が受け取る給与(基本給のほか残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与)を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて決定した標準報酬月額を、保険料や年金額の計算に用います。現在の標準報酬月額は、1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれています。
参照:日本年金機構

傷病手当金の受給期間

傷病手当金の受給期間は、受給開始日から通算して最長で1年6ヶ月です。この期間中に病気やケガが治癒しない場合は、継続して受給が可能です。受給期間の計算は、初めて手当金を受け取った日から開始されます。

一度復帰して傷病手当金を中断し、再度働けなくなった場合、働いていた期間はカウントされず、トータルで1年6ヶ月まで受給が認められます。

傷病手当金の申請の3ステップ

傷病手当金の申請にはいくつかのステップがあります。まずは必要な手続きの概要を押さえておきましょう。

ステップ1. 加入している健康保険の事務所に問い合わせる

まず、健康保険の窓口部署や加入している健康保険組合・協会に傷病手当金の申請について問い合わせましょう。電話やインターネットで問い合わせることができます。

ステップ2. 申請書や添付書類の準備

書類は郵送やオンラインでダウンロードすることができます。書類には、個人情報や病気の内容、休職期間などを記入する欄があります。

本人>>被保険者記入用の用紙に必要事項を記入

医師>>療養担当者(医師等)記入用の書類を提出し記入してもらう

会社>>事業主記入用の書類を提出し記入してもらう

ステップ3. 書類を提出する

すべての記入が完了したら、書類を会社に提出します。会社が書類をとりまとめ、加入している健康保険組合または協会に支給申請を行います。

通常は会社からの申請が多いですが、事業所によっては自分で提出しなければならない場合もあります。提出方法は事前に確認しておくことをおすすめします。

傷病手当金の審査期間

傷病手当金の審査期間は、通常2週間程度といわれています。審査期間中は、書類の内容に不備があると再提出や訂正することになり、支給が遅くなってしまいますので。申請書類の書き間違いや提出漏れがないように注意しましょう。

支給開始のタイミング

記載内容や添付書類に間違いなく、医療機関の担当医師への紹介審査などがなければ、申請書受付から1か月程度で支給されることが多いようです。加入している健康保険組合や協会によって異なりますので、気になる方は、あらかじめホームページ等で確認しておくようにしましょう。

傷病手当金が減額もしくは支給されないケース

1.待機期間が発生していない

傷病手当金は、最初の3日間の待機期間を経てから支給されます。この期間がないと支給されません。

2.休んだ期間の給与支払いがあった

休職中に給与が支払われていた場合、その期間は傷病手当金の対象外です。しかし、支払われた給与の日額が、傷病手当金の日額より少ないときは、傷病手当金から日額給与を引いた差額分を受給できます。

例)10,000円(傷病手当金の額)ー7,000円(支払われた給与の日額)=3,000円(傷病手当金として受け取れる額)

3.障害年金・障害手当金を受給している

同じ病気や ケガによって障害年金や障害手当金を受給している場合、同じ期間に傷病手当金を受け取ることはできません。

ただし、障害厚生年金の額(同時に障害基礎年金を 受けられるときはその合計額) の360分の1が傷病手当金の日額より低いときは、その 差額が支給されます。

障害厚生年金や障害手当金を受給しているからといって、傷病手当金の全額が支給されないとは言えませんので、まずは、ご自身の年金受給額を確認した上で、傷病手当金を受給できるか検討してみましょう。

4.出産手当金を同時に受給している

出産手当金とは、出産のために会社を休み、その期間中に給料の支払いがない場合に支給される制度です。

出産手当金と傷病手当金をもらう期間が重複する場合、前者が優先されます。こちらもほかのケースと同様に、出産手当金の日額が傷病手当金の日額を下回っている場合は、その差額分が受給されます。

5.労災保険から休業補償給付を受けている、または受けていた

労災保険は、仕事や通勤でケガ・傷病が発生し、仕事ができないときに休業補償給付を受け取れます。

「うつ」の原因が職場や業務であるとはっきり分かっている場合には、労災保険が優先され休業補償給付金の対象となることがあります。労災保険が給付されているときは、基本的に傷病手当金はもらえません。

しかし、他のケースと同様に休業補償給付の日額が傷病手当金の日額よりも少ない場合に限り、その差額分を受給してもらえます。

6.国民健康保険加入者やフリーランスの方

国民健康保険加入者やフリーランスの方は、基本的には傷病手当金の対象外です。この場合は、別の支援制度を利用する必要があります。

傷病手当金に関するQ&A


この章では傷病手当金についてのよくある質問とその回答を紹介します。

Q.退職後ももらえる?

退職後も一定の条件を満たしていれば傷病手当金を受け取ることができます。

《退職後も受給できる条件》

  • 退職日までに、継続して1年以上健康保険に加入している。
  • 退職日の前日まで、「うつ」治療のため連続して3日以上仕事を休んでいて、退職日も休んでいること(傷病手当金の受給条件を満たしている、または受給している)

Q.転院した場合でも支給される?

傷病手当金は、転院先でも同じ病名でなければ支給されません。もし、紹介状なしで転院先で初診を受けた際に病名が異なっていた場合、傷病手当金を受け取ることができず、余分な手続きが必要になってしまいますので注意が必要です。

また、以前の病院を最後に受診した日から転院先の病院を初めて受診する日までの期間については、労務不能の証明ができないため、その間の傷病手当金を受け取れない可能性があります。

傷病手当金は【仕事以外の事由】により「うつ」などの症状で会社を休んだ際に支給されるものですので、労務不能の証明として医師の診断書が必要となります。

就労不能の証明がない期間は手当金を受け取れないため、転院前と転院先の医療機関に相談することが大切です。

Q.うつが再発した場合も支給されますか?

うつ病が再発した場合でも、1年6ヶ月以内であれば再度受給できます。この場合の待機期間(最初の3日連続休)は必要ありません。

しかし、1年6ヶ月を満了し、一旦治癒したとみなされ仕事に復帰していたが再発してしまった場合は、別の傷病として認定されれば支給される可能性も考えられます。

しかし、加入している健康保険組合や協会によって判断が異なる場合がありますので、確認が必要です。

うつ病の方が傷病手当金以外に受けられる支援制度

「うつ」の方が傷病手当金以外に利用できる支援制度がいくつかありますので紹介します。自分に合った支援制度を活用して、経済的な負担を軽減しながら治療に専念しましょう。

1.労災保険

労災保険は、業務中や通勤中に発生した傷病に対して保険給付を行う制度です。仕事が原因でうつ病を発症し、療養のために休職する場合も対象となります。休職の4日目以降から給付が開始され、最初の3日間は会社からの休業補償が支払われます。

給付を受けるには、「休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書」または「休業給付支給請求書」を労働基準監督署に提出する必要があります。

休業補償給付の給付額は、休業1日につき基礎日額の80%(60%が休業補償給付、20%が休業特別支給金)です。申請は最寄りの労働基準監督署に持参するか郵送で行います。

2.特別障害者手当

特別障害者手当は、「精神又は身体に重度の障害を有し、日常生活で常に特別な介護の必要がある20歳以上の在宅の方」に対し、月額28,840円が毎年2月、5月、8月、11月に支給される制度です。

ただし、受給者やその家族の前年度の所得が一定額を超えると支給されません。

参照:厚生労働省「特別障害者手当について

3.生活福祉金制度

生活福祉資金制度とは、「うつ」や障害を持つ方、低所得者や高齢者などが経済的に困らないようにするための貸付制度です。この制度は、在宅での生活を支えたり、社会に参加する手助けをすることを目的としています。ただし、このお金は貸付なので、返済が必要です。

参照:全国社会福祉協議会「福祉の資金(貸付制度)

4.自立支援医療制度

自立支援医療(精神通院医療)とは、「うつ」などの精神疾患で、通院による精神医療を続ける必要がある病状の方に、通院のための医療費の自己 負担を軽減するものです。

通常、医療費は3割負担ですが、自立支援医療を利用することで1割負担となります。自己負担の上限額も設定されているため、通院費や薬代の負担が軽くなります。

この制度は都道府県が実施していますが、申請はお住いの市区町村で行っています。申請方法や提出書類は自治体によって異なりますので、事前に確認する必要があります。

参照:厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)について

5.障害者手帳による減免

「うつ」の症状によっては、障害者手帳を取得することができます。障害者手帳を取得することによって、支払いが減免されることがあります。減免される例としては

  • 住民税、所得税の控除・減免
  • NHK受信料の減免
  • 就労支援サービス(各自治体により異なる)

参照:精神保健研究所「こころの情報サイト

6.失業手当(雇用保険給付)

「うつ」で退職しても、条件を満たせば失業保険を受け取ることができます。失業保険は、退職後の再就職を目指す期間中に生活費を補うための制度です。

支給の条件として、再就職する意思と能力が必要です。「うつ」が治らず、復帰の見通しが立たない場合は受給できないこともあるので注意が必要です。

「うつ」の方の復職や再就職の支援

「うつ」から回復し、復職や再就職を考えるときには、支援制度を活用することで、スムーズに職場復帰ができるようになります。この章では、代表的な支援制度を紹介します。

リワークプログラム

リワーク(Rework)は、精神的な健康問題やストレスで休職した労働者が、職場に戻るためのプログラムです。実施は主に、企業(または、企業の提携施設)医療機関や地域障がい者就職センターなどに分けられます。

リワークには個別やグループ、講義形式など様々なアプローチがあり、うつの症状や適正、また施設によってプログラム内容が異なります。

ハローワーク

ハローワーク(公共職業安定所)では、「うつ」などで退職した人の再就職支援を行っています。職業相談や求人情報の提供、職業訓練の紹介など、多岐にわたるサポートが受けられます。定期的に訪問して、最新の求人情報をチェックするのも良いでしょう。

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターは、障害者の方が就労できるようサポートする施設です。「うつ」などの精神的な障害を持つ人々に対し、ハローワークと連携して、就職に向けた相談や職業能力の評価、そして就職前のサポートから、職場での適応支援まで、個々の状況に応じたサービスを続けて提供しています。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターでは、障害者の方が安心して働けるように、就業と生活の両面で支援を行っています。職業紹介や職場適応訓練、生活面でのアドバイスなどが受けられます。職場に馴染むための支援も行っているので、初めての職場でも安心して働けます。

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所は、一般就労をしたい障害のある人を対象にした、通いながら準備をする福祉サービスです。個々に合わせたプログラムや企業での実習、就職活動の支援、そして長期的な働き方のサポートなどを提供しています。

参照:厚生労働省「就労移行支援事業

うつの症状が辛いときはメンタルケアを並行して行う

うつの症状が辛い場合は、申請手続きまでのステップが困難に感じるかもしれません。

特に傷病手当について調べる際は、予想以上に時間や労力を費やしますので、メンタルケアの観点からも、カウンセリングを取り入れることが有効です。

現在ではオンラインカウンセリングサービスも充実していますので、自宅などからリラックスしてメンタルヘルスのプロであるカウンセラーに相談をすることができるでしょう。

まとめ

この記事では、「うつ」で傷病手当金を受け取るための条件や申請方法について詳しく解説しました。傷病手当金の申請は少し手間がかかりますが、「うつ」などで仕事が続けられないときに大きな支えとなります。

また、傷病手当金以外にもさまざまな支援制度があることを知っておくと、治療や再就職の際に役立ちます。

もし、手続きや治療についての疑問がある場合は該当する窓口に相談し、気持ちの不安などはカウンセリングを利用してみましょう。。現在ではオンラインカウンセリングサービスも充実していますので、専門のカウンセラーから、あなたの状況に合わせたアドバイスやサポートを受けることができるでしょう。。

仕事に関する悩みを相談できる
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メザニン登録カウンセラー
宮園 さとみ Satomi MIYAZONO
公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント

プログラマ等の社会人経験を経て、職場のメンタルヘルス問題のニーズを感じ、対人支援職に転向。就労支援、リワークなど、メンタルヘルスに関わるプログラムに携わっています。

【メッセージ】
今まで目を向けてこなかった自分の可能性や、これからの選択肢、自分への理解を深めるお手伝い等、人生という長距離を走るあなたに、寄り添い伴走しながら、応援する。そんなカウンセリングの時間を提供できればと思っています。