時短ハラスメントは、企業と従業員の双方にとって深刻な問題です。早急な対策を講じることで、生産性の向上と健全な職場環境の維持が期待できます。
今回は、時短ハラスメントが起こる原因と、企業が取るべき対策について解説していきます。
「時短ハラスメント」とは
「時短ハラスメント」とは、時間短縮ハラスメントの略で、企業側が業務内容の見直しなどの対策を行わずに業務時間の短縮だけを強要し、時間内に終わらせるように強くプレッシャーをかけたり、時間内に終わらないことで叱責したりするハラスメント行為のことです。
近年の「働き方改革」によって時短ハラスメントは急増し、略称である「ジタハラ」という言葉は、2018年にユーキャンの新語・流行語大賞にノミネートされたことで注目を集めるようになりました。
「時短ハラスメント」が起きる原因
「時短ハラスメント」が増えている要因には「働き方改革の推進」と「人材不足」の二つが考えられます。これらについて詳しく解説していきます。
働き方改革の推進
2019年4月に施行された労働基準法により、労働時間は1日8時間および週で40時間と定められました。また、36協定(時間外労働・休日労働に関する労使協定)を締結している企業でも、従業員の時間外労働の上限は原則として月45時間(年間360時間)と定められています。
これにより、企業側は定時退社や「ノー残業デー」などの対策を行っていますが、業務量の見直しや調整などの根本的な対策が十分に行われていない状態で、業務時間だけを削減していることが時短ハラスメントの原因につながっていると言えます。
参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針
人材不足
2021年8月に厚生労働省が行った「産業別正社員等労働者過不足状況と労働者過不足判断」によると、調査した全業種において、正社員が不足していると回答した企業が、正社員が足りていると回答した企業を大幅に上回る結果となっており、慢性的な人手不足である状態を反映する結果となっています。
厚生労働省「労働経済動向調査(2021年)の概況 」Ⅳ-2 労働者の過不足状況 表5を参考に作成
企業側は、人手不足の状態であるにも関わらず、労働時間の短縮を行わなければならないため、結果的に労働者への負担が増えることで、ハラスメントが起こっているのではないかと考えられています。
時短ハラスメントに該当する事例
ここからは、時短ハラスメントに該当する事例を紹介します。
事例1.持ち帰り残業を強いられる
定時退社のために強制的に定時に退社させられたものの、業務が終わっていないために、自宅に仕事を持ち帰っているケースがあり、持ち帰った仕事は残業とはみなされず、結果的に無給状態で働いているという人も多く見受けられます。
事例2.業務が終わらないと厳しい叱責を受ける
業務量が変わらない中で労働時間だけが減少し、業務を終わらせることが困難になり上司から「仕事の効率が悪い」などと理不尽に叱責されることは「時短ハラスメント」に該当する可能性があります。
また、「働き方改革」により残業を禁止したため、最終的なノルマや納期を守れず上司に厳しく叱責されることがあり、これはパワハラやモラハラとして多くの企業で問題となっているケースもあるようです。
事例3.上司からの丸投げ
残業が禁止されている組織で、上司が自分の業務を部下に丸投げすることがあり、その結果、部下が持ち帰り残業をせざるを得なくなるケースがあります。
また、上司が本来の業務量の管理や納期に関する責任を放棄し、「残業するな」という命令だけを出し、進め方の一切を部下に丸投げするというケースもあります。定時までに終わらせることが無理な業務量を強要することも「時短ハラスメント」に該当します。
「時短ハラスメント」が引き起こすリスク
「時短ハラスメント」が起きていることを分かっていながら、何も対策もせず放置しておくと、従業員にとっても企業にとっても大きなリスクを負う可能性があります。この章で詳しくみていきましょう。
従業員のリスク
まずは、従業員が時短ハラスメントを受け続けることで受けるリスクの代表例を3つ紹介します。
1.生産性が下がる
定時退社を命じられ、持ち帰り残業や休日にも業務を行うことにより、仕事へのモチベーションや生産性が低下してしまう可能性があります。
また、業務時間内に終わらせることだけが目的になり、勝手に工程を省いたり手抜きをしたりすることで、一定の品質が保てなくなる場合があります。
2.収入の減少
定時退社により残業できないことで、残業代が支給されず収入が減ってしまう可能性があります。基本給が低く、残業代などの手当を厚くしている企業では、残業カットは収入の減少に直結する恐れがあります。
これにより、従業員が給与だけでは生活が厳しくなり、副業やアルバイトをはじめたことで、結果的に本業とのバランスが難しくなってしまい退職してしまうケースもあります。
3.心身への悪影響
業務量の調整を行わずに業務時間だけをカットすることで、従業員がプレッシャーを感じ、それが精神的な負担になり、メンタル不調を 起こしてしまう可能性があります。
また、時短により納期が間に合わず厳しく𠮟責したことにより、精神疾患になり休職や退職をしてしまう恐れもあります。
企業のリスク
「時短ハラスメント」によってリスクを負うのは従業員だけではありません。「ジタハラ」への対応が遅れることで企業側に与えるリスクを3つ紹介します。
1.休職者や退職者が増える
「時短ハラスメント」が起こることで、従業員のモチベーションが下がり、それが引き金となって、退職に繋がるケースがあります。
また、従業員が心身に不調をきたし、休職した場合には、医療費負担が増加し、コスト上昇
の可能性もあります。
休職や退職が増えることで現場の従業員への負担も増え、さらに退職者を増やしてしまうという悪循環にもつながりかねません。
2.品質の低下
業務時間が減ったにも関わらず、同じだけの業務内容をこなすことで、業務や商品のクオリティが下がってしまう可能性があります。
また、残業時間を減らすこと自体は素晴らしい取り組みですが、それにより給与などが下がってしまった上に、サービス残業などが発生したことで、従業員のモチベーションが下がり生産性を下げてしまう場合があります。
3.企業ブランドに傷がつく
最近は、SNSや口コミサイトの普及により、企業の不祥事や悪評は瞬く間に拡散される傾向にあります。
ハラスメントの告発や良くない企業体質が露呈することで、企業のブランドイメージが著しく低下し、生産性や採用活動にも大きな影響を及ぼしかねません。
企業が取るべき「時短ハラスメント」対策
企業側は「働き方改革」の取り組みを行うとともに、時短ハラスメントの防止にも務める必要があります。この章では、企業が時短ハラスメント防止のためにできることを紹介します。
業務量の見直し
業務時間の削減が従業員の負担になっていると感じたら、業務量や業務内容を見直していく必要があります。今までの残業時間分の業務量を削減するなど、業務時間内に全てが終わるように調整していくことで従業員への負担は減っていきます。
また、会議の時間や作業工程に無駄がないかなど見直すことで、無駄を省き効率よく業務をこなすことが期待できます。
労働力と人員配置の見直し
業務量の削減が難しい場合は、人員を増やしたり配置転換を行ったりすることで、作業効率を上げることも有効な手段です。
また、マニュアル化できる部分は積極的にマニュアル化していくことで、遅れている業務のサポートも行いやすくなるでしょう。
さらに、ソフトウェアにより業務の効率化が計れそうな場合は、ソフトウェアの導入も検討してみると良いかもしれません。ソフトウェアの導入は人員補充よりもランニングコストを低く抑えられる場合もあります。
ハラスメントに対する認識の改善
当事者側が認識なくハラスメントをしている可能性も考えられますので、企業が率先して、何がハラスメントに該当するのかなどの認識のすり合わせや、ハラスメント研修などの意識改革を行うことも大変有効な手段と言えます。
また、専門の調査部門やアンケート調査を行うことでハラスメントを早い段階から対処することができたり、未然に防ぐことも可能になります。
コミュニケーションの活性化
適切な業務量の見直しのためにも、経営者や上司が従業員の能力や各部署の適正な人員配置など、現場の状況をしっかりと把握しておく必要があるでしょう。
そのためにも、普段からコミュニケーションをとり、率直な意見交換ができたり、業務に対する不安や悩みを打ち明けやすい関係を構築しておく必要があると言えます。
また、従業員と同時にクライアントともコミュニケーションを取ることで、働き方改革への理解を得やすくなり、納期の調整なども行いやすくなる可能性があります。
相談窓口の設置
社内に相談窓口を設置することで、ハラスメントの根本的な原因を探りやすく、対策も立てやすくなる可能性があります。
しかし、組織内でのハラスメントに関しては、社内の人には相談しにくいケースも考えられますので、、カウンセラーなどの専門家や外部の相談窓口を利用してみるのも良いでしょう。
また、ハラスメント当事者も、会社からのプレッシャーで板挟みになっている可能性もあります。精神的なストレスで、部下を追い込んでしまったり、過度な叱責をしてしまったと感じた場合には、専門家などの第三者に話を聞いてもらうことは大変有効な手段です。
オンラインカウンセリングは予約も簡単
オンラインカウンセリングはインターネットにつながる環境であれば24時間、スマートフォンからでも簡単に予約が取れます。
また、オンラインカウンセリングは自宅で相談できるのもメリットです。
相談をするために移動する時間を省くことはもちろん、なによりリラックスできる状態で自宅などから専門のカウンセラーに相談することができるのが、オンラインカウンセリング最大のメリットです。
まとめ
今回は、「時短ハラスメント」が起こる原因と、「時短ハラスメント」に対して企業が取るべき対策について解説していきました。
時短ハラスメントは、会社側が定時退社を強要することで持ち帰り残業を暗黙のルールにさせたり、業務時間内に所定の業務を終わらせることができない従業員を理不尽に叱責することです。
「時短ハラスメント」は生産性を低下させるだけでなく、企業イメージの低下にもつながりかねませんので、早急な対策が必要であると言えます。
また、従業員として「時短ハラスメント」を受けていると感じた場合には、メンタル不調を起こす前に、相談することが大切です。一人で悩まずに、周囲に頼るようにしましょう。
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